近年、新入社員や中途採用の若手社員を中心に、雇用後3年以内の早期離職が増加傾向にあります。人材採用や育成には一定のコストや時間がかかるため、コストや時間をかけた従業員の早期離職は企業の損失となります。
では、なぜ従業員の早期退職は起こるのでしょうか?
この記事では、早期退職の現状とともに、早期退職が起こる原因や注意点、予防策などをご紹介しましょう。
数字でわかる早期離職
早期離職とは、入社後3年以内に離職することを指します。
早期離職の原因について知る前に、まずは離職に関するデータを用いて早期離職の現状を把握しておきましょう。
労働者全体の離職率
近年の労働者(パートタイマーを含む)の離職率は、以下のように推移しています。
全体の離職率 | 男性の離職率 | 女性の離職率 | 一般労働者の離職率 | パートタイマーの離職率 | |
---|---|---|---|---|---|
平成27年 | 15% | 13.0% | 17.7% | 11.8% | 25.3% |
平成28年 | 15% | 13.0% | 17.6% | 11.4% | 26.2% |
平成29年 | 14.9% | 13.0% | 17.3% | 11.6% | 25.7% |
平成30年 | 14.6% | 12.5% | 17.1% | 11.3% | 23.6% |
令和元年 | 15.6% | 13.4% | 18.2% | 11.4% | 26.4% |
ここ5年間の平均 | 15.02% | 12.98% | 17.58% | 11.5% | 25.44% |
(厚生労働省-2019 年(令和元年)雇用動向調査結果の概況 1.入職と離職の推移 (1)令和元年の入職と離職より https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/20-2/dl/gaikyou.pdf)
これらの数字を見ると、全体の離職率は15%前後で推移していることがわかります。
また、男性よりも女性の離職率の方が5%前後高くなっており、一般労働者よりもパートタイマーの離職率の方が14%前後高くなっています。
早期離職者の離職率
次に、早期離職者にあたる、就職から3年以内の離職率について見ていきましょう。
平成28年と29年における、新規学卒者の就職後3年以内の離職率は、以下のようになっています。
新規大卒就職者 | 新規高卒就職者 | |
---|---|---|
平成28年3月就職 | 32% | 39.2% |
平成29年3月就職 | 32.8% | 39.5% |
(厚生労働省-新規学卒就職者の離職状況の公表 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00002.html https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00003.html)
このように、新規学卒者の早期離職率は、平均すると35%程度になります。労働者全体の離職率が15%程度であることと比較すると、早期離職の割合の高さは明白です。
ただし、この数字は新規学卒者に限定される数字であり、中途採用者は含まれません。中途採用における早期退職を含めると、離職率はさらに上がると予想されます。中でも早期離職率上位の業種は、以下の5種になります。
業種 | 新規大卒就職者 | 新規高卒就職者 |
---|---|---|
宿泊業・飲食サービス業 | 52.6% | 64.2% |
生活関連サービス業・娯楽業 | 46.2% | 59.7% |
教育・学習支援業 | 45.6% | 55.8% |
小売業 | 39.3% | 49.5% |
医療、福祉 | 38.4% | 47.0% |
(平成29年3月就職における離職率https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00003.html)
上位業種では、50〜60%近い離職率となっています。人材の採用や育成にはコストがかかるため、コストをかけた人材がすぐに流出してしまう早期離職は、各企業にとって大きな問題となっています。
退職原因ランキング
早期離職の対策を行うにあたっては、退職原因について理解しておくことが大切です。ここでは、退職者が挙げている退職原因をご紹介しましょう。
令和1年の調査によると、転職した人が前職を辞めた理由と割合は、男女別、上位から順に以下のようになっています。
転職した人が前職を辞めた理由と割合【男性】
離職理由 | 割合 |
---|---|
定年・契約期間の終了 | 16.6% |
労働条件が悪かった | 11.2% |
人間関係が好ましくなかった | 9.3% |
給与が少なかった | 8.7% |
会社の将来が不安だった | 7.3% |
会社都合 | 6.3% |
能力や個性、資格を生かせなかった | 5.4% |
仕事内容に興味を持てなかった | 4.8% |
介護・看護 | 0.7% |
出産・育児 | 0.4% |
結婚 | 0.4% |
その他 | 27.4% |
(残り1.5%は不明)
転職した人が前職を辞めた理由と割合【女性】
離職理由 | 割合 |
---|---|
人間関係が好ましくなかった | 14.8% |
労働条件が悪かった | 12.5% |
定年・契約期間の終了 | 10.7% |
給与が少なかった | 9.4% |
会社都合 | 5.8% |
仕事内容に興味を持てなかった | 5.4% |
会社の将来が不安だった | 4.1% |
能力や個性、資格を生かせなかった | 3.1% |
結婚 | 2.4% |
出産・育児 | 1.9% |
介護・看護 | 1.4% |
その他 | 26.6% |
(残り1.9%は不明)
「定年・契約期間の終了」や「会社都合」を除くと、「人間関係の悪さ」や「労働条件のミスマッチ」、「給与の低さ」を理由に離職している離職者の割合が多いことがわかります。
また、女性は「結婚」や「出産・育児」による離職率が多いと思われがちですが、実はその割合はさほど多くはありません。「人間関係の悪さ」が圧倒的に大きな割合を占めています。
つまり、多くの人が、仕事内容やライフスタイルの変化よりも、仕事を行う環境に不満を持って離職しているのです。
離職率改善における注意点
離職率を改善するための対策を実施するにあたっては、「自社における離職原因の正確な把握」が大切です。「離職者が何を原因に離職しており自社のどこに問題があるのか」という点を正確に把握しなくては、適切な対策は取れません。
ただし、離職者が離職する本当の原因を会社に伝えることは、ほとんどありません。会社の待遇や人間関係への不満は、上司や会社に伝えにくいためです。
そのため、離職原因の傾向を明らかにするためには、離職データを多角的に分析したり匿名のアンケートを取ったり、離職を決めた社員とのコミュニケーションを深めたりと、様々な面から離職原因を調査する必要があります。調査により離職原因や現場で起こっている問題が明らかになれば、その後の対策は取りやすくなるでしょう。
離職率改善のための離職防止策
離職率を改善させるためには、具体的にどのような対策を取ればいいのでしょうか。この章では、代表的な離職防止策を4つの面からご紹介します。
1 労働時間・休暇取得の管理徹底
長時間労働が必要であったり休暇取得ができなかったりすることは、従業員の不満に繋がるだけでなく、業務効率も悪化させ、延いては企業価値をも低下させます。特に近年では、長時間労働が問題視され、労働時間の適正な管理が企業に求められるようになりました。
従業員の離職を防ぐためは、まず労働時間の管理を徹底し、無理な残業をせずに済む環境を作ること、そして休暇取得も徹底し、休暇を取得しやすい雰囲気を作ることが大切です。
2 社内のコミュニケーションを活発に
社内での活発なコミュニケーションも、離職率を下げるために有効です。従業員それぞれのコミュニケーションが取れていれば、不安や悩みを周囲に相談しやすく、また解決もしやすいためです。
良好な人間関係を築くためにも、積極的なコミュニケーションは必要でしょう。
リモートワークが増加した現在では、チャットや会議ツールを利用するなど、離れていてもコミュニケーションを取れるような工夫が必要です。
3 社内環境の整備
離職率を下げるために、社内の環境整備は必須です。例としては、「モチベーション上昇に繋がる評価制度の導入」や「ワークライフバランス支援策導入」、「ハラスメント防止の徹底」などが挙げられます。
社内環境はそれぞれの企業で異なるため、取るべき策にも違いがあります。そのため、アンケートやヒアリングなどで現場の実態を把握する必要はあるでしょう。「誰もが気持ちよく働ける会社」を目指した環境整備が行われれば、離職率は低下するはずです。
4 フォロー体制整備
離職防止策としては、従業員のフォロー体制を整備することも重要です。各々の従業員が「今どんな状態でどんな悩みを抱えているか」企業が把握することで、従業員が離職を考える前に解決策を講じることができるためです。
例えば、新入社員に対するオンボーディングを行ったり、若手社員にメンターをつけたり、既存社員にもアンケートや定期的な面談を行ったりと、まずは従業員の状況を把握できる場を整備しましょう。そして、企業がそれぞれの問題の解決にあたり、従業員のフォローを続けていくことで、離職率低下が期待できます。
まとめ
従業員の早期離職は、コストだけではなく、ノウハウを持った人材が育っていかないという課題にも繋がります。このような課題に対しては、早期離職の防止策を実行するだけではなく、ノウハウを情報として残していくという対処も必要でしょう。
早期離職の防止やノウハウの情報化には、ナレッジツールを使用することもひとつの方法です。自社に合ったツールを用い、高い離職率への対策を検討しましょう。